カリーヴルスト、チーズ追加で。【1】

 

 

とうとう1人になった。


身を乗り出して左右の連結部分を確認する。
隣の車両に見えていた、クロスした足はもう見えない。
運転手と車掌と、自分だけ。

「特急電車待ち合わせのため、5分ほど停車いたします。しばらくお待ちください。」

たった1人の乗客に向けた定型文が10両編成の常磐線にこだまする。

 

マッチングアプリで定型文は使うな」とTikTokの恋愛マスターが語っていたが、その意味がなんとなくわかった気がした。

 

時刻は19時すぎ。人がいないのは車内だけじゃない。

 

視覚、聴覚、触覚、嗅覚、、、、まあ、いいや。
その五感とやらで人は生きてる訳だけど、人の「気配」を感じるのにはどの「覚」を使っているのだろう。
昔から鈍感な自分であったが、人の気配がないのは明らかだった。人の気配がしないとき、刹那の高揚感を味わった後、漠然とした恐怖に陥る。

この駅は原発からどれだけ離れているのだろうか。

 

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そもそも最初から、福島第一原子力発電所に行くと決めていたわけではない。

 

元々、スマホが大嫌いな自分がとあるSNSの運営として働き始めて9ヶ月。
厳重に放浪欲をしまっておいた魔法のランプを、仕事のストレスがさすってしまったらしい。気づけば勤務中にもかかわらず、ワンモアコーヒーを嗜みながら沖縄や長崎の航空券を探していた。

Googleで調べてみると前日の購入は片道4万円らしい。でも、放浪欲のジーニーはそんなことには目もくれない。迷わず購入ボタンをクリックすると、以下の文字が目に入った。

現時点で旅行の料金は高額です。
 
 
 

話はそれるが、父の趣味はゴルフと、仕事帰りに成城石井でセール品を大量に買い占めることである。そんな父の息子であるから、自分も定価で物を買うことなんてほとんどない。ドラッグストアでもらった15%引きの広告は常に財布に常備している。(ドラッグストアは10%引きがデフォルトで15%が本当の割引だとさえ思っている。)

そんなことで、高額の2文字は南への一人旅を断念させた。

 

ならば、北へ。

 

翌朝、新三郷のIKEAにやっぱり長すぎた200cmの青いカーテンを返品して、週末1人旅がスタートした。